beach storyのお話 story.41 14年の背負いから

beach storyのお話 story.41  14年の背負いから


いっ君の実家の前まできた。

お墓からはそう遠くもないから

歩きでもどうにか来れる。


窓も開いているし家には誰かはいる様子だ。


嫁ちゃん

何突っ立ってるの?早く行きなよ

分かってら、俺のタイミングって

 もんがあるんだよ。


俺にとっては本当にドキドキだったんだ。

ひと呼吸おいて、思い切って玄関のドアを

ノックしてみる。心のどこかで誰もいない

事を願ったりしてしまう自分もいたが、

声が聞こえた。


はいよ~、どちらさん?

と1人の男性が出て来てくれた。


いっ君のお父さんだ。一目で分かる。

あれから14年。

さらに歳をとっているが、すぐに

分かった。目はいっ君そっくりだ。


突然にすいません。

 14年前にいっ君と一緒に働いてた

 yoshiですがいっくんのお墓まい

 りをさせてもらいたくて訪ねました


お父さん

あっ、あの時、一緒に仲良くして

 くれてた子だ!なら、一緒に行こうか?

 車出すからとりえず乗ってよ!


こっちのいきさつは特に聞かれずに、

言葉は優しく言われるがままに車に

乗せられた。


車の中では当時のことや今は何して

るのとか、一言話しては沈黙が入り、

互いに探りながら話し、いっくんの

お墓へ向かう。


そして、

なんと今回に限って俺は場所を勘違い

していた💦一本さらに奥の道を進む

必要があったのだ。

俺の横で嫁ちゃんは横目で俺を睨み

ながら小声で


あんたってなんなの


自分でも不思議に思うほど、なぜ間違

えたのか。どうしてこの脇道が抜けて

いたのか。


無事にたどり着いて俺と嫁ちゃんが

感じた事はその場に着いた途端に

俺達が間違えた場所にそっくり

だったんだ。その場所だけさっきの

所にまた戻ったかのような。

いっくんのお墓から見える景色も

同じ光景が広がっていた。

嫁ちゃんも不思議な顔をしたまま。

だって全く同じなんだもんね

こうなるように誘導されてたみたいに

感じてくる。


そして、お父さんも一緒に3人で

お墓の前に座り込み、手を合わせ

お祈りをした。


いっくんのお父さんは座り込んだ

まま僕らに話を始めた。


まずは今日来て頂いて本当に

 ありがとうね。いっくんもまた

 会えて喜んでるさ。yoshi君が

 場所を間違えたのは、きっと

 いっくんが僕らを引き合わせて

 くれたんだよ。

 本当にありがとう!

お父さんの口からも同じような

俺が感じたことを言葉にして

そのままいっくんとの思い出を

色々話してくれた。


お父さんの話の中で、いっくんは

何があっても人のせいにはしなく

人を恨むような人ではなくいつも

明るくお兄さんを慕い、妹想いの

優しい子だったよと我が子を慕う

話だった。


だからいっくんの想いを僕らも

忘れないように、いつも心の中に

ずっといるんだよね。


お父さんは不思議なことに

俺がこれまでずっと気にして

いたことを全部拭ってくれる

ような話し方だ。


もちろんこの時、俺からは何も

話していない。話を聞くたびに

これまでの苦いものが消えてい

くようなそんな気持ちになって

いった。


そして、その後お父さんに再び

いっくんの実家に招かれ、その

日の夕食になんと僕らを招いて

くれたのだ。


もちろん家の中の仏壇にも

お線香をあげさせて頂き、当時

葬儀で使われた遺影の写真も

用意してくれていた。


いっくんのお母さんもお父さんと

同じように心から笑顔で、僕らに

お礼を言ってくれているのが

伝わってくる。


当時のことや、僕が久米島を出て

から今日のことまで互いの人生を

話し込んでいる中、いっくんの

お父さんは僕に思い出したかの

ように2つの花瓶を取り出し、僕に

見せながら訪ねてきた。


yoshi君は、もしかして前にも

何度か来たことがあるんじゃない?

この大きな花瓶はもしかしてyoshi君が

置いていったんじゃない?

これらの花瓶にたくさんのお花が添えら

れていたことがあって誰だろうってずっ

と気になっていたんだよ。何年かしたら

また同じようなことがあって。

島の僕らの知り合いに聞いてもみんな

知らないって話だったから、いったい

誰がやっているのかずっと不思議で

モヤモヤしてたんだけど、


これyoshi君だったんでしょ?


いつかこの花瓶に花を添えて

くれた人に出会えるように

ずっと大切に保管してたんだ。

今まで本当にありがとうね。

やっぱり、僕らもずっと気に

なってたからいっくんが

引き合わせてくれたんだよ。

これからもこの大きな花瓶を

大切に使わせてもらうね。

 

今から僕ら夫婦は2人のことを

家族として息子娘として接するから、

2人も僕らをお父さん、お母さんと

呼んでほしい。そして、もう黙って

来る事はしないで、久米島に来た時には

必ずここに寄ってください。

久米島に来た時はここを自分の家だと思

っていつでも来たらいいよ!


もう俺は涙が止まらなかったな。

今思えば恥ずかしかったけどずっと

泣きっぱなしだ

俺はずっとどこかで、恨まれているかも

しれないとか、俺と出会っていなければ

あの日いっくんは死なずすんだのかもし

れないって思いが強くて、だからずっと

顔は出せずにいた訳だから。


なんというありがたい言葉を頂いたのか。


あれから14年。

今日までずっと背負ってきた呪いがまさに

解放された瞬間だったよな。

そして、このタイミングで、今回久米島に

来る事が出来たスタッフの仲間、あの時、

背中を押してくれた嫁ちゃん。これまでの

出来事の一つ一つが繋がり全てに感謝が

出来た瞬間でもあった。


無事に さいたま市 大宮 にも帰ってきて

ゆきちゃんは問題なく無事にお店を

営業してくれていた。今回の出来事を

全部聞いてくれたゆきちゃんも、

号泣しながら、共感してくれたよ。


それからは、躊躇する事なく、本当に

気兼ねな久米島に来る事が出来るように

なった。その翌年の年末年始には再び

久米島を訪れ、僕らのことを家族と言って

くれた久米島のお父さん、お母さん達と

一緒に年越しもして、本当に沖縄の久米島と

いう島に家族が出来たように感じた。


story42(最終話)に続く

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